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レイ・ダリオ氏:現金はゴミではなくなった

有名ヘッジファンドのブリッジ・ウォーター・アソシエイツの創業者レイ・ダリオ氏は、2月2日にCNBCのインタビューに答えて、「現金はゴミではなくなった」との見解を示しました。

レイ・ダリオ氏は、新型コロナ禍以降「現金はゴミだ(Cash is trash)」と述べてきましたが、FEDが昨年大胆な利上げを行い、実質金利がプラスに転じたことを受けての意見変更です。

「現金はゴミ」の真意


レイ・ダリオ氏は、新型コロナ以降、現金はゴミである(Cash is trash)と述べたことが話題になっていました。この背景には、パンデミックを受けて、米国がお金を刷って配りまくったという事情がありました。

以下の米国マネーサプライの推移を示したグラフを見ていただくと、米国が2020年3月以降、いかに大規模なバラ撒きを行ったのかがお分かりいただけると思います。

米国M2(マネーサプライ)の推移 / FRED

その当然の帰結として、アメリカはインフレに襲われることとなりました。

米国CPI推移 / FRED

さて、現金はインフレのもとでは、その購買力がどんどん毀損していきます。実際の購買シーンを考えてみると分かりやすいですが、300円で買えた牛丼が600円に値上がりしてしまえば、600円という現金の価値は牛丼2杯分から牛丼1杯分に半減してしまうわけです。

レイ・ダリオ氏の「現金はゴミ」という言い回しは、その状況を端的に言い表していました。

現金がゴミかどうかの判断基準は実質金利


さて、レイ・ダリオ氏は「現金はゴミではなくなった」と意見を変更したわけですが、その背景には実質金利がプラスに転じたことがあげられます。

米国実質金利の推移(2023年1月まで)/ FRED

実質金利とは、名目金利から期待インフレ率を差し引いたものです。厳密には少し違いますが、イメージとしては、現金(預金)につく金利からインフレ率を差し引くことで、現金の本当のリターンを知ることができるというわけです。

レイ・ダリオ氏が「現金はゴミ」と言っていた期間を確認すると、実質金利がマイナス圏で推移していたことが分かります。これは預金から得られる金利以上に物が値上がりしてしまうので、実質的には損をしているということを表しています。

しかし、昨年はFEDが大胆な利上げを行ったことで名目金利が上昇し、直近はアメリカのインフレ率が低下しています。そのため、実質金利は大幅に上昇し、新型コロナ禍以前の水準を上回る1.78%という水準になっています。

この水準であれば、現金の魅力は相対的に高いというのがレイ・ダリオ氏の見解です。

現金は、実質金利が−1.75%というひどい状況だったが、今の状況(+1.75%)であれば魅力的だ。債券と比べても魅力的だし、株式と比べても魅力的だ。典型的な動きが見られている。金利が上がって、金融市場が引き締められると、市場の一部、特にバブルであったところからお金がなくなる。

※実質金利は期待インフレ率に何の数値を使うか等によって微妙に数字が変わるため、上のグラフとの厳密な差は許してください。

株式は一本調子に上を目指せない


さて、レイ・ダリオ氏が解説している「金利の上昇によって、現金の価値が高まる」というのは、どちらかといえば昨年2022年のテーマであり、今年に入ってからの市場はインフレ率の低下(に伴う金利低下)を意識した株式・債券の上昇を続けてきました。

レイ・ダリオ氏は非常に歴史を深く研究しており、どのようなことが起こるかという点については優れた洞察を示すものの、たまに少し見解がマーケットから遅れていると感じることがあるのも事実です。

とはいえ、金利の上昇が現金の優位性を高めて、株式や債券の価値を毀損するという減速はその通りです。

また、直近は強い雇用統計や米国GDPが発表されて、インフレがこのまま順調に収まるのかどうか疑念が湧いています。

そのため、米国金利は下げ渋るようになってきました。

米国10年国債金利(2023年2月7日時点)/ Investing.com

米国株や米国債は、インフレ減速に伴う金利低下を折り込む形で上昇してきたため、このシナリオが崩れれば、調整を余儀なくされるでしょう。ガンドラック氏は、株式等のリスク資産が年初からの上昇で徐々に割高水準に戻ってきていることを指摘していました。

「現金が債券や株式と比べて魅力的だ」と言い切れるほど優れているかというと疑問が残りますが、金利の下げ止まりが意識される現在、現金ポジションを少し高めておいても、あるいは株式のポジションを少し削っておいても、デメリットは少ないでしょう。

結論


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現在の状況は、サマーズ氏が以前述べていたように、非常に難しい状況となっています。目先のインフレ率は低下しているものの、GDPや雇用統計では強い数字が出てきて、米国経済の先行きがデフレなのかインフレなのか、さらにいえば米国金利が上昇するのか下落するのか、判断がつきにくいからです。

そんな中で、実質金利が+1.7%もあるわけですから、多少現金を厚めにして、株式等のポジションを減らしてもバチは当たらないでしょう。


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