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米国のインフレは、エネルギーのデフレの恩恵を受けて減速する可能性がある

昨日のニュースレターでは、エネルギー価格のデフレの恩恵を受けて、東京都のインフレが全体では減速したことをお伝えしました。

原油価格は(為替を除くと)世界共通であるため、2月以降は米国のインフレ率も当然ながらエネルギーのデフレによる恩恵を受けて減速圧力が働くこととなるでしょう。

そのため、短期的にはインフレ原則を背景とした金利低下を受けて、株価や債券価格が反発する可能性があります。

インフレへの警戒で金利が上昇した2月の相場


まずは2月の相場やマクロ経済の状況を振り返っておきましょう。

2月は、予想よりも強い雇用統計やCPIなどが出てきたことで、「インフレは落ち着かないのでは?」という不安が台頭しました。

2023年2月3日に発表された1月分の米国雇用統計では、雇用者が517,000人増でした。これはコンセンサスの190,000人増を大きく上回る数値でした。
前回、0.6ポイントも低下したのと比べると、ややインフレ減速の勢いが失われている印象であるため、今後、再び順調に低下していくのか、下げ止まってしまうのか、その辺りが来月以降の注目ポイントとなるでしょう。

インフレとの戦いの結末は、深刻な景気後退を伴うハードランディングになるか、緩やかな景気後退しか起こらないソフトランディングになるかと年初には話していたはずが、2月には新たにノーランディングだ(そもそもインフレは収まらない)という言葉が使われるようになりました。

JPモルガン銀行のあるジェイミー・ダイモンCEOがFF金利は6%になるだろうと発言したことも話題となりました。ガンドラック氏がFF金利は5%を上回らないと発言していた年初と比べると、随分とインフレに関する世間の見方や景色が変わったわけです。

結果、米国の短期金利は上昇して、2年国債金利は昨年につけた高値を更新しました。

米国2年国債金利(2023年3月5日執筆時点)/ Investing.com

本ニュースレターでは、2月上旬のこのような気配を察して、株式を中心にポジションを小さくすることをお伝えしてきました。

結果、2月の株価下落の直撃を避けることができたわけですが、次は今後の相場を考えなければいけません。

今後数ヶ月のインフレ率の行方


さて、サマーズ氏は、以前のニュースレターで紹介した通り「ここからのインフレ減速は困難だ」としており、さらに直近のブルームバーグのインタビューではFEDは再びインフレに対して遅れを取り始めたと述べていました。

たくさんの反動効果が出てくるようになる。中古車の卸売価格はインフレを再加速させる要因となるだろう。ガソリン価格にも反動による上昇が見られる。他にもたくさんの領域で、9ヶ月前くらいに大きく上昇した反動で、現在は通常のインフレ率に戻る過程で低下しているものがある。

一方、ガンドラック氏は「5月頃に向けて、前年比+4%程度まではインフレ率が順調に下がっていく」としていました。

直近も、世間がインフレのノーランディング論に終始する中、景気後退への準備を忘れてはいけないと警鐘を鳴らしています。

インフレ率がコロナ以前の2%程度まで戻るという夢のような未来は考えにくいとしても、4%程度まで順調に下がるかどうかは非常に重要です。なぜなら、今の米国長期金利の水準がまさに4%程度だからです。

インフレ率が4%程度まで順調に下がっていくのであれば、現在の米国債の金利はすでに十分に高く、今後の上昇余地は少ないことを意味します。

米国10年国債金利(2023年3月5日執筆時点)/ Investing.com

2月に上昇した長期金利が3.9%台でピタリと止まって、4%を超えようとしないのは、インフレ率が4%程度まで下がってくることを示唆しているようにも思えます。

エネルギー価格のデフレ効果が働くのはこれから


さて、今後数ヶ月の米国インフレ率を考えるにあたって、頭に入れておかなければいけないのは、エネルギー価格が前年比でマイナスに転じるのは、まさにこれからだということです。

以下のWTI原油価格のチャートを見ていただくと、原油価格自体がマイナスに転じ始めたのは昨年の6月からです。

WTI原油価格(2023年3月5日執筆時点)/ FRED

6月上旬に120ドルに達して2回目のピークをつけた原油価格は、その後、順調に低下して、80ドルあたりで推移しています。そのため、原油価格のデフレの恩恵はすでに受けていると思いがちです。

しかし、それはあくまでも原油価格の絶対値です。前年比という比較で見た場合、原油価格が前年比でマイナスに転じたのは今年の1月からです。

WTI原油価格の前年比(2023年3月5日時点)/ FRED

2月の前年比は-16%程度ですが、昨年3月に原油価格が110ドルといった水準をつけていたことを考えると、原油価格が80ドル程度のまま推移すれば、3月のエネルギー価格は前年比-27%程度になると考えられます。

原油価格は先ほども書いた通り、6月上旬に二度目のピークをつけた後に下落に転じています。そうすると、5月頃までは昨年の原油価格が高く、前年比が低く出やすいことになります。ガンドラック氏が5月頃まではインフレ率が順調に下がるとしていたのも、こうした背景があるからでしょう。

結論


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